忍者ブログ
多種多様に日々徒然 小言だったり小説一部だったり、 コメントはお好きにどうぞ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

紅葉色の林檎

約束を、したわけじゃないけれど。



彼女は笑って『綺麗だね』空を仰ぎ見ながらステップした。そんな景色を今でも覚えたまま。小さい頃の懐かしい思い出。赤と黄色の絨毯の上を、柔らかい掌を握って駆け出した。今思えば、とてつもなく単純に喜べた。俺もあいつも。今はもうそれほど感動を覚えることなんてないと思う。それでもふと、この場所が浮かんだのはきっと、あの時少女だった彼女が、とても嬉しそうに笑ったから、そんな単純な理由。


『あいつは?』
覗き込んだあいつの教室。今日の部活は監督の事情で急遽休みになった。だから、早々に帰れると思い呼びに来た。しかしそこにあいつの姿は無かった。窓際のあいつの席は空席になっていて横にかけているはずの鞄も見当たらない。
前の席の栄口があれ、と俺に気付いて声を上げた。なんでいるの?と聊か失礼な言い方だと思いながら今はそんなこと気にならなかった。「は?」意味が分からないと顰めればおかしいな、そんな栄口の呟きが聞こえた。

『大分前に帰ったよ?』
『え、』

『うちのクラス、担任出張だから6時限自習だったんだよ。』
教師来たら適当に誤魔化してって帰ったよ。「てっきり、俺泉とサボりに行ったのかと思ってたんだけど。」違ったみたいだね、苦笑した栄口の言葉に、俺は言葉を失くす。

俺は何も聞いてなかった。確かに一緒に帰るからと言ってわざわざメールすることも無い。合わせたかのように俺達は一緒に帰ることが『当然』だと思ってるからだ。別に約束したわけではないから謝りのメールをいれなくても良いと思っているのに、一緒に帰れないときはメールするのが当たり前になっていた。だからあいつが俺に何も言わずに帰ることが信じられない。可笑しな感情がめぐる。

チャリを全速力で漕いで家に戻る。いるのはお袋だけあいつの姿はない。息を切らせた俺の姿を見たお袋が、あいつの名前を呼んで一緒じゃないの?と聞いてきた。違うと言ったらそーなの、と珍しそうに呟いた。
お袋の声も無視して俺は元来た道を走り出す。学校には居ない、靴が無かった。家には居ない、郵便がそのままだ。合鍵を使って中に入ってみても、やっぱり居なかった。
朝は普通だった。普通に俺の家で朝飯食ってチャリで登校。部活やって授業受けて昼食って。何があった?
 
 

小さな公園だった。
住宅街のど真ん中にあって小さな土地に無理やり作られた公園に、
遊具は殆ど存在しなかった。
小さな滑り台やブランコ、砂場、
その程度の公園は専ら近所の主婦の井戸端と化していて、
そこに母親につれられて小さな子供が遊びに来る。
唯一の自慢なのはその見事な並木道。
春は桜、秋は楓や銀杏の紅葉。
公園をぐるっと取り囲むその並木は、
春は花見に、秋は紅葉狩りのスポットとして地域では有名だった。
公園の中央に置かれた一つのベンチから見る風景は
昔俺とあいつが子供心に綺麗だと感動した場所。
 
 
 

紅く色付きした葉一枚一枚が風に揺れる。
隣り合った葉に当たり、小さな音を立てた、
木一本、並木一列、
集まった音たちは盛大に歌い合う。
重力と風に従って落ちてきた葉が一枚、
また地面を赤に染めた。
見渡す限りの紅葉。
渇いた地面に渇いた紅葉が落ちてカサリと音を立てた。
5時にもなれば日は傾いて一面が真っ赤な夕日に染められる。
黄色の銀杏がオレンジに、紅い紅葉は更に赤く。
燃えるように焔の色。
見渡す限りの赤一色。

 
携帯を鳴らしても一向に繋がらない。
呼び出してはいるのにあいつは出る気配もない。
視界の端に見えて来たそこ一帯だけの“赤”。
季節良く綺麗に色付いた紅葉。
空を染めていく夕日。
独りでいるには絶好の風景だ。
チャリを漕ぐ。
漕げば漕ぐほど、視界に入ってくる赤の領域は増えていく。
けれど、一向に近づいた気がしない。
錯覚だったとしても、気分は遠い。
それでも分かる。
あいつは必ずあそこにいる。
阿部あたりに言えば鼻で笑われそうなただの勘。
見えてきた入り口。
 


 

子供達は居ない、しんとした場所。
ばいばい、またね、
そういって母親と共に笑顔で手を振って分かれた近所の子たち。
懐かしいな、呟いた声は誰も聞いてないことを祈った。
あの時はそれは見事な紅葉の並木道。
今と同じように微かな風に揺れて
地面にひらひらと落ちていく紅葉が一枚二枚。
音の小さな静かな世界。
ああ、けどそれももう終わりだな、
逸る感情が素直に教えてくれる、来訪の時。
見付かったか、呟けば聞こえてきた遠い鈴の音。



占有権を主張する落ちた紅葉が、
俺が動くたびに巻き起こる風にふわりと浮いた。
そんなことに眼もくれず、それらしい影を見つけて走り出した俺。
やっぱりここにいた、石畳を走る。
高い音が少しだけ響いて消えた。
入り口に背を向けて、
公園の真ん中に存在する木のベンチに腰掛ける人物。
じっと、空を見て微動だにしない。 


 

聞こえてくる一歩一歩の足音に、
アタシは小さく見えないように悟られないように笑った。
そして感じる聊かな優越感と自己嫌悪。
眼一杯探しただろう彼は切れ切れと呼吸を繰り返す。
静かなその公園にその音だけ微かに聞こえた。

 

「   」
 



俺が来たのに気付いているのか否か、
視線を逸らすことなくただじっと前を向く。
何があったかは分からないけど、
きっと独りでいたいからここにいるんだ、
そう思えば今の俺は邪魔な存在。
それでも、
 

 

 

ぎしり、と後ろの隣り合ったベンチが揺れる。
微かな振動に彼が同じように座ったのが判った。
ちょうどアタシの真後ろに腰を降ろして
トン、と肩の辺りに彼の後頭部が当たる。
上を向いて小さく息を吐いて。

 

 

 

 

 

 

 

「泉。」

 

 


それから十分か、もしくは二十分か、
あいつはずっとそのままで、
漸く喋ったかと思えば俺の名前。
なに、終わった?と顔を見ず一切体勢を変えないまま俺は聞いた。

「泉、」
それでもあいつは俺の質問に答えることなく
また俺の名前を呼ぶ。
不思議に思って頭を上げてあいつを見ようと後ろを見ようとして、
邪魔された。

「孝介」
俺の首にぎゅっと抱きついて頭を埋めている。
背後から抱きついてきた。

 

「なに、どーした?」

 


動けないことを諦めて、ふぅ、いきを吐いた俺はそっと聞く。

 

 

 

 

「秋、だから」
「は?」

 

 

 

 

 


「うん、ごめん」

会話の成り立たない言葉のやり取り。
赤く染まっていた空はいつのまにか暗く、黒が落ちる。
いい加減帰らなければ、お袋が大騒ぎする。
それでも、もう少しだけ、


そう思うのはきっと俺だけじゃない

PR
コメントを投稿する

HN
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
Calendar

03 2026/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
最新コメント

最新記事

アクセス解析