ヒロイン 『 紅條 遡羅 』
主 人 公 『 伊崎 結衣 』
同中男子 『 坂下 優希 』
本当は気づいていた。
知っていて無視していた。
だって知りたくなかったから。
知ってしまったら、気づいてしまったら。
私はきっとあの子を嫌いになれなくなる。
夕暮れ時のセブンティーン
委員会のあったその日、私は委員長に押し付けられた本の山を抱えて静かな廊下を歩く。まだまだ夕暮れには程遠い快晴。遠くで部活に励む声が聞こえる。部活に入っていない私は少しだけその声にあこがれることもあった。
「(なにより、泉君が野球部だったし)」
中学のとき、少しは運動系の部活に入ってれば話題くらいにはなったかもしれない。それでも運動並みの私にそれは無駄な話と言うわけで。
(せめて紅條さんくらいスタイル良かったらなー)
2年女子の中じゃ一番目立つ身長や顔、スタイル。噂で聞いたけど、野球部男子と一緒に練習していても筋肉質じゃなく、さらに無駄な肉がないように見えるあのウエスト。実際体重も軽いらしい。手足もすらっと細くて長くて、指も綺麗で。極めつけはあの顔。綺麗な金髪交じりの薄い茶色。透明で綺麗な緑色の目。クォーターだっていうのは中学の頃から噂で知ってはいてもやっぱり目を引かれるその容姿。
(きっと誰だって羨ましい、とか思うよね)
自分の容姿を貶すのはかなり落ち込むけど、私は何事も並。身長も体重も並で頭や運動だって並。比べる以前の問題。
「なーにやってんのー?」
「うきゃー!!!!!!!」
「うきゃー、って猿?」
「・・・さ、坂下君・・・」
耳元に息を吹きかけられながら囁かれた声に体ごと驚く。うわ、びっくりした。振り返れば小中と同じ学校だった坂下君がしてやったりと笑っていた。
「やーん、優希って呼んでー。」
「・・・気持ち悪いよ、坂下君。」
「高校あがったら結衣ひどくなってない?」
「知らない。」
ちぇーと、坂下君、改め優希はつまんなそうに呟く。何してんの?手に持ってる本を指差しながら欠伸を一つ。
「なんだ、仕事押し付けられたんじゃん。」
「う、煩いな。いーの、私どうせ暇だし。」
「野球部見に行ってんじゃないのー?」
「っ、煩い!!行ってないよ。」
「ふーん。」
歩く私の後を着いて来るように優希は歩いてきた。野球部かー、なつかしーなー。とか、俺も中学ん時まではマジにやってたんだけどなーと、当たり障りない会話を続けながら角を一つ曲がる。くそ、馬鹿ユーキ。暇なら手伝ってよ!!
「お、おーい、みっずたにー!!」
「おー、さっかしたー!なーにやってんのー?」
優希が私を追い越して向こうに見えた7組の水谷君。あ、と優希が小さく声を漏らした。紅條ー!!優希が右手を大きく振りながら走りよっていく、そしてあろうことかあの細腰に抱きついた。見えた紅條さんの横で水谷が手を振っている形で固まった。そりゃそーだよ。紅條さんだって固まってる。
「いやー、泉いなくてラッキー!!」
確かに泉君いたらそんな堂々と抱きつけないものね、(ちょっと羨ましいと思ってる自分が悲しい)ある意味尊敬するわよ、優希。
「潰れろ、坂下ぁ!!!」
「グハッーーー」
「さ、坂下ーー!!?」
そして繰り出される見事な回し蹴り。やっぱりスポーツ万能な人は格闘技も万能なんだろうか。と、見当違いなことを考えながら呆気に取られていると、紅條さんがただなる雰囲気を纏って私のほうに近づいてくる。
「伊崎さん、それ貸して?」
「(え、)あ、はい。」
「ありがと。」
私が手に持っていた物をすべて受け取ってそのまますたすたと、蹴られて倒れてる優希とそれを必死に起こしてる水谷君の下に歩いていく。重くないのかな、あれ(結構重かった)。
「(名前、知ってたんだ、 紅條さん)」
「ほら、坂下立って。これ持って、伊崎さん手伝いなよ。」
「え、えー!!」
「えーじゃねーだろ、えーじゃ。女の子に重いもん持たせて何やってんだ!!人に抱きつく前にまず持ってやるのが男だろ!!」
「「怒るとこそこー!!??」」
そういって紅條さんは優希に本を持たせて自分は私のとこに歩いてくる。あれ、どーすればいーの?と優希を指差しながら笑って尋ねて来る。
「?、伊崎さん?」
「え、あ・・・」
「どーかした?気分悪い?とか?」
「んーん、大丈夫。」
首を振ってなんとなく一歩下がる。その私の行為に紅條さんがじっと見てきたがふいににっこり笑ってならいーや。と泉君といるときによくみるあのそっくりな笑顔で笑った。
「あ、の・・・紅條さん?」
「んー?」
「どーして私の名前・・・」
関わりの一切無い紅條さんがどうして私なんかの名前を知ってるんだろう、
「え、だって、同じ中学でしょ?」
「・・・・・・」
「あれ、委員会の仕事?手伝おっか?」
「え、あ、!!大丈夫!!紅條さん部活、でしょ?」
「まー、大丈夫、 かな?」
「なに、紅條ー、部活出ないのー?(泉が怖ぇーって、)」
顔を真っ青にして水谷君が怖がってる。
「大丈夫だよ、紅條さん。」
「そーかー? 坂下ぁ、手伝ってあげなよ?」
「なんで俺~?」
「お前、暇だろ。」
「・・・・・・」
「な?」
「しゃーねー、なー。」
「頼りにしてるよー、坂下。」
「おー、まっかせとっけー!!」
「ホントはアタシも手伝えたらいーんだけどさ。」
「本当に大丈夫だから。部活頑張ってね。」
ありがと、と子供っぽい笑顔を紅條さんと水谷君から貰い、二人とも手を振って部活に走って行った。
ぎゃー、遅刻!! 紅條が油売ってるから!! だって、伊崎さん困ってたじゃん!!坂下サボってたし!! 紅條って何気に男前だよね!!ついでに泉から俺も守って!! ざっけんな!!なんでアタシがクソレフトなんか!! それ未だに言われなきゃなんないの?俺!!??
「紅條、いー奴っしょ?」
「っ、優希・・・」
「なに?」
「・・・いつから知ってた?」
立ち直った優希が隣で私を見下ろしながら笑った。それって結衣が紅條嫌いなことー?と相変わらずふざけていたけれど。
「良い奴なんだよ?紅條は。」
少し悔しそうに笑う優希の顔は私にそっくりだった。
私達はきっと、望みの無い恋をする。
「さーて、覚悟はいーか?坂下ぁ、」
「い、泉さん?」
「ごめん、坂下!!」
「水谷!!裏切ったな!!」
「おめぇ、よくも遡羅に抱きついたな?」
「ちょ、ヘルプ!!紅條。」
「え、無理。」
「はやっ、!!」
「花井ー!!泉が暴れてるよー!!」
「お前等止めろよ!!部活中!!」
「おめぇもだよ!!クソレフト!!」
「泉にまで言われた!!紅條見てないで助けてよ!!」
「「問答無用。」」
「「なんでー!!!」」
「平和だね、西広。」
「そーだね、栄口。」
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